空飛ぶ馬

北村 薫 著
東京創元社


 
大学生で本好きの「私」は、恩師と先輩との食事中に、恩師と古田織部にまつわる不思議な夢の話を聞かされます。

それは彼が幼少の頃、叔父の家で寝泊りするたび、見覚えのない武将が切腹している夢を何度もみた、というもの。その後蔵の中に眠っていた古田織部の肖像画を見せてもらった時、そこに描かれていたのは、まさに夢の中で切腹していた武将だった、というのです。

なぜ、一度も見たことがないはずの古田織部の絵を夢に見たのか?「こっそり肖像画を見たのに忘れていた」「まったく別の絵と混同した」などの推理がゆきづまるなか、その謎を鮮やかにときほぐす人が居ました。色白の顔に、やさしい眉がよく似合うその人こそ「私」の先輩、落語家の五代目春桜亭円紫です。

この「織部の霊」の一件をきっかけに、交流を深める二人。「私」は自分の日常生活で起きるささいな出来事や、見すごしてまいがちな小さな謎をおしゃべりします。そしてその話を聞く円紫さんは、事実から推理を組み立て、意外な真相を明らかにしていきます。

そこで「私」(と読者)は、自分の日常にも謎がひそんでいること。そして、見方を変えて観察すれば、いつもの風景がまるでちがって見えるということを発見します。

喫茶店でひそかに行なわれたいたずらから、暗い悪意が透けて見える「砂糖合戦」や、純情な男女の恋愛模様をつづった、クリスマスにぴったりの表題作「空飛ぶ馬」など、五つの短編を収録。「殺人事件が起きない本格推理小説」と話題を呼び、現在に続く「日常の謎」ブームのさきがけとなった「円紫さんと私」シリーズの第一作です。

篠山市立中央図書館