海の見える理髪店


萩原 浩/著
集英社


第155回の直木賞受賞作です。

高倉健さんがモデル?と思う俳優が贔屓にしたことで有名になった理髪店に、ミーハーなグラフィックデザイナーが訪れる話かと思いきや…。

装丁にあるような、海の見える時代遅れの古びた洋館の理髪店。なのに、外観を裏切るきちんと整理された店内にある「鏡」がこの話の要となる。

鏡越しに淡々と思い出話を続ける店主。ことば少なに聞く青年。思い出を話す中で、なぜ店主がこの海の見える場所に理髪店を出すに至ったかが語られる。

結婚式の前に来たというこの青年に、先が長くないだろうからと今まで客に話したことのない思い出話を話す店主。

鏡に映る海の色が時間と共に変わっていくなかで、夕焼けで真っ赤になったときにあーそうだったのかという感動を覚える。

あくまで店主と客として、なにも直接に話すことのない二人。

読者だけが置いてきぼりをくって、途中で気が付き、驚き、感動する。

読み終わったあと、自分もとても丁寧に丁寧に散髪してもらったようなさっぱりとした気分が味わえる。
何度も読んで味わいたい作品です。是非。(他短編5編)

三木市立青山図書館