エーミールと探偵たち


エーリヒ・ケストナー 作
池田香代子 訳
岩波少年文庫


『児童文学』はお好きですか。「それって子どもが読む本でしょう」と思われる大人の方も多いと思います。確かに、児童文学は子どもを読者対象とする文学です。しかし、だからと言って、子どもしか読んではいけないという決まりはありません。かつて子どもだった大人も(いえ、もしかすると大人になってからのほうがより一層)楽しめ、惹かれる面白さが児童文学にはあります。

この本は、お母さんから預かったお金を持って、ベルリンに住むいとことおばあさんに会いに行く、エーミールという男の子が主人公です。初めての街に心を躍らせ汽車に乗りますが、うっかり眠ってしまい、同じボックス内に坐った怪しげな男に、大切なお金を盗まれてしまいます。それに気づいたエーミールは、ベルリンの街で仲間を見つけ、犯人をつかまえるために動き出します。

エーミールには、勇気と知恵と力がありますが、一人きりで犯人に立ち向かうのは困難だったでしょう。偶然出会えた仲間たちがいたからこそ、協力し合い、それぞれのよさを発揮することができました。そして、登場する犯人以外の大人たちが、子どもを単なる子ども扱いせず、一人の人間として愛情のこもった寛大な心で見守っています。これは、私たちの生活にも必要な要素でしょう。人間は一人でも生きていくことができます。しかし、家族や友人や周りの人たちがいるからこそ、自分らしくいられ、優しく強くなれます。エーミールと探偵たちの活躍ぶりに引き込まれ進んでいく物語ですが、人間としてどうありたいか、と考えさせられる一面もあります。

児童文学は、子どもに向けた単なるつくり話のものだけではありません。この本のように、勇気や希望、ユーモア、うまく生きていくための知恵を教えてくれることもあります。ちょっと疲れたなあと思う時、さみしい時、楽しい気分の時、落ち込んでいる時、どんな時にでも、そっと、本のページをめくってみてください。
エーミールとその仲間たちが、励ましや元気を与えてくれるかもしれません。

加西市立図書館 藤田 朋子