「本所おけら長屋」1~9巻

畠山 健二 著
PHP研究所


舞台は江戸時代、本所亀沢町(現・東京都墨田区)。ここに「おけら長屋」という一つの長屋があります。この長屋は今で言う集合住宅のようなもので、質素倹約のこの時代に人びとは生活が苦しいながらも隣近所ともに助け合いながら暮らしています。

この「おけら長屋」の住人は、女性とお金の話にめっぽう弱い奉公人の万造と松吉、剣の達人島田鉄斎、ワケありだが心優しい後家女のお染などなぜかひとクセもふたクセもある個性豊かなキャラクターばかり。そのせいか「おけら長屋」には事件や相談事が事あるごとに舞い込んできます。それを長屋の住人たちが知恵と人情で解決していくという話です。

よくある人情ものの時代小説かと思いきや、話がめまぐるしく展開し笑いあり涙ありでいつのまにか物事が解決していくさまは、まるで落語のお話を聞いているかのような心地よさがあります。著者の経歴を見ると演芸の台本執筆や演出をされていたそうで、そこで培われた世界観がこのお話の面白さを作り上げているのではないかと思います。

江戸時代は技術も医療も今より発展しておらず生きていくだけでも精いっぱいな時代ですが、ここに描かれる人々は苦しいときこそ人に寄り添いお互い支え合いながら必死に前を向いて進んでいこうとしています。この作品に人と人とのつながりの大切さやいつの時代も悩み苦しみながらも日々前を向いて生きていくことの大切さを教えられます。

時代小説で人気の捕物帖や剣豪小説のような派手さは決してありませんが、権力も武器も使用せず人々の力となり物語を動かしていく「おけら長屋」の住人たちの優しさに心が癒されます。日常の疲れも癒される心温まる一冊です。

丹波市立柏原図書館